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17.乳児期から老年期まで


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乳児から老人までの口腔清掃


 虫歯や歯周病のない健康な口腔機能を維持することは、何よりも食生活を豊かにし、快適な人生を送るうえで大切なことです。そのためにも正しい歯みがきは欠かせません。ここでは胎児・乳幼児期から老人期までの各ライフステージにおける効果的な歯のみがきかた(口腔清掃)を紹介します。

①胎児期(誕生前)  ②乳幼児期(0歳~6歳)  ③学童期(7歳~12歳)  ④思春期(13歳~20歳)

⑤成人期(21歳~40歳)  ⑥壮年期(41歳~65歳)  ⑦老年期(66歳~80歳) 
  

①胎児期(誕生前)


1.歯の形成期

 生後6カ月頃から生え始める乳歯も、また、6歳頃から生え始める永久歯も、すでにこの胎児期から形成が始まっています。乳歯のもとになる芽(歯胚)は胎生7週目頃からつくられ、お母さんのお腹の中でほぼ完成します。また、永久歯の歯胚も胎生14週目頃からつくられます。
 

2.歯と食物(栄養)

 母体の健康を保つことはもちろん、胎児への栄養補給としてバランスのとれた食生活が大切です。特に強い歯をつくるために、タンパク質、カルシウムとリンは十分に。
  

②乳幼児期(0歳~6歳)


1.乳歯のむし歯
 乳歯は生後6ヶ月頃から生え始め2歳半頃に生えそろいます。厚生労働省の平成11年歯科疾患実態調査報告によると、2歳で22%の子供がむし歯になり、5歳で64%と約3倍に増えています。その後生えかわる永久歯がむし歯にならないようにするためにも、乳幼児期に十分に注意することが大切です。3力月に1回、少なくとも半年に1回は定期健診を受けたほうがよいでしょう。また予防処置としてフツ化物の歯面塗布や予防填塞(奥歯の溝を埋める)をしてもらうと効果的です。
 また、おやつは時間と量を決め、食べ物を選んで与えること。そして歯がきちんとみがけるようになるまでは、甘いお菓子などを制限し、虫歯予防に心がけることです。
 
2.歯みがきの習慣づけ
 歯が生え始めた時から虫歯予防は始まります。はじめは清潔なガーゼで歯の周りを拭き取るように。そして、歯ブラシに慣れさせ、歯みがきをいやがらないようにするためにも、早いうちから歯ブラシを使って歯をみがく習慣をつけるようにすることが肝心です。
 
3.お母さんの仕上げみがき
 歯ブラシに慣れてくると子供は自分でみがきたがりますが、まだひとりで上手にみがくことはできません。むし歯を防ぐうえで、お母さんの仕上げみがき(清掃)が大切です。
 
 

 
 “保護者みがき(全体的にみがいてあげる)”
☆歯みがきの習慣づけ
 
 
 奥歯の噛み合わせ部分には溝があり、むし歯になりやすいので、一番奥の歯までしっかり清掃することが大切です。
☆歯みがき練習開始
 

 “仕上げみがき(保護者みがきに加えて子供への歯みがき指導)”
子供は練習することにより、歯みがきができるようになります。しかし、上手にできるまでは“仕上げみがぎをしてあげましょう。

③学童期(7歳~12歳)


①生えかわりの時期

 
 5歳から6歳にかけて最初の永久歯(第一大臼歯)が乳歯列の一番奥に生えてきます。そして12歳頃までに、乳歯は永久歯へと生えかわります。
 

②生え始めに多い永久歯のむし歯

 
 生えて間もない永久歯は、虫歯になることが多いようです。永久歯とはいえ、生えたばかりで歯質そのものがまだ未熟で、虫歯菌に対する抵抗力も弱いのです。とくに第一大臼歯などは生えきるまでに1年~1年半ほどもかかるため、歯ブラシが届きにくい状態が続きます。その間に虫歯になる率が高いのです。この第一大臼歯は生涯の阻しゃくの中心になる歯です。この時期の虫歯を防ぐことがその後の歯の運命を決めるといっても過言ではありません。
 また、初期の歯肉炎は、学童期から始まり年齢とともに増加しています。歯ぐきにも注意が必要です。
 

③歯みがき方法は歯並びにあわせて

 
 

 
第一大日歯 噛み合わせの溝の汚れをかき出すように清掃しましよう。
 
  

● 前後に動かすだけではよく清掃できません。
● 歯列に対し45度ななめから歯ブラシを入れて清掃します。
 

④思春期(13歳~20歳)


1.歯肉炎の発症期

 
 この時期、歯ぐきの腫れや出血が多くみられることがあります。歯ぐきのトラブルの初期段階である歯肉炎の始まりです。歯肉炎初期は痛みもなく、症状も小さいために見逃しやすいもの。放っておくと、さらに進んで歯周炎になることもあります。
 歯みがきの時に歯ぐきをチェックし、異常を早期に発見することが大切です。
 

2.プラーク(歯垢)のたまりやすい場所に注意したブラッシングを

 歯ぐきのトラブルと並び、奥歯のむし歯もこの時期は依然多くみられます。どちらもその原因はプラ-ク(歯垢)です。特にたまりやすいポイントに注意してていねいに清掃することが大切です。


■健康な歯ぐき

 ● 歯ぐきの色:薄いピンク
 ● 歯ぐきの形・感触:歯間部にしっかりと入り込んで弾力性に富み、引き締まっている。
 
 
 
 

■ 歯肉炎(歯ぐきのみに炎症が起きた場合)

 
 歯と歯ぐきの境目に付着・停滞しているプラーク中の細菌の出す毒素により歯ぐきに炎症が起き、歯ぐきが赤く腫れてきます。そのため歯の周りに歯肉ポケット(仮性ポケット)と呼ばれる溝ができ、プラークがますますたまりやすくなります。
● 歯ぐきの色:赤みを帯びる。
● 歯ぐきの形・感触:歯間部の歯ぐきは、先端部(歯間乳頭)が丸みをもってふくらんでくる。
● その他:歯みがき程度の軽い刺激でも出血しやすい。
 


この時期からデンタルフロスを併用することが大切です
 
● 歯と歯ぐきの境目
歯ブラシの毛先(わき)を歯と歯ぐきの境目に当て、細かく振動させて清掃します。
 
 
 
 

● 奥歯の噛み合わせ

噛み合わせ面に直角に歯ブラシをあて、細かく前後に動かして清掃する。
 
 
 
 
 

●奥歯の後ろ側

歯ブラシの毛先を奥歯の後ろ側にあて、細かく前後・左石に動かして清掃する。

⑤成人期(21歳~40歳)


1.歯周炎の発症期

 
 これまでの生活習慣や歯のケア不足が原因で、歯肉炎はさらに増力ロし、処置せずに放っておくと、歯槽骨や歯根膜にまで炎症が進行した歯周炎もみられるようになります。歯周炎は、成人期以降に歯を失う主因。また、特にこの時期から注意したいのは高脂血症、糖尿病などの生活習慣病です。薬によっては唾液分泌を抑制するものがあります。唾液が少なくなると歯の周りが汚れやすくなり、歯周病の原因にもなります。日頃の歯の清掃が欠かせません。
 

2.歯ぐきを守るブラッシング

 歯ぐきのトラブルはブラツシンクを上手にすることで改善することが可能です。そのためには、歯と歯ぐきの境目のプラーク(歯垢)除去が肝心です。歯の根や歯ぐきをていねいに清掃することがポイントです。
 同時に、歯ぐきのマッサージをして、歯ぐきの血行をよくすることも忘れずに。
 

 

<歯石のたまりやすい場所〉

 歯石は歯ぐきを刺激して、炎症を引き起こす原因となります。また表面がざらざらしているためにプラークがさらにたまりやすくなります。ブラツシンクでプラークをしっかり除去しておけば歯石はできません。
 

● 前歯の裏側

下顎の前歯の裏側はプラークや歯石がたまりやすい部分。毛先をしっかり届かせて清掃すること。
 
 
 
 
 
 

● 奥歯の表(ほお)側

とくに上ブラシが動かしにくいところです。口を指1本分くらい開ける程度にするとみがきやすくなります。
 
 
 
 
 
 

● 利き腕側の上あごの奥歯

とくに裏(舌)側は力が入りにくいので、ゆつくりていねに。首を利きき腕側に軽く傾けるとみがきやすくなります。

⑥壮年期(41歳~65歳)


1.歯の喪失が始まる

 
 40歳代以降、歯周病などによって歯を失う人が増えてきます。働き盛りで、歯科医院へ通う時間がつくりにくいなどの理由が考えられますが、歯は失ったら二度と元には戻らないのです。年2回の定期健診を受け、予防と早期発見を心がけたいものです。
 

2.歯根のむし歯に注意

 この世代になると歯周炎や不適切なブラツシンク(力の入れすぎ)などで歯ぐきが次第に退縮し、人によっては歯の根が出てくることがあります。歯の根(象牙質)は歯の表面のエナメル質と違って軟らかい組織で、むし歯にかかりやすいので注意が必要です。
 

 

○ さし歯や詰め物のある歯

さし歯=つぎ足したところ、とくに歯ぐきとの境目に気をつけて清掃します。
詰め物のある歯=詰め物の周りがむし歯になりやすいので毛先を到達させて小刻みに動かして清掃します。
 
 
 


○ 歯の根がでているところ

歯の楓まプラークがつきやすく、エナメル質より軟らかいのでむし歯になりやすい部分です。
歯と歯の間も広くなるので、先をきちんと当て、小刻みに動かし、1本ずつ清掃します。また、歯間ブラシを使うと清掃しやすいでしょう。
 
 


○ 歯間ブラシ

● 歯間部が広い場合の清掃に。
● 歯ぐきを傷つけないよう、ゆっくりゆすりながら挿入します。
● ブラシを水平にし、ゆっくりと前後に2~3固動かし清掃します。
 
 
 

○ デンタルフロス

● 歯ブラシが届かない歯間部の清掃に使います。
● 両端を指に巻きつけ、歯と歯の間に歯面に沿ってゆっくり挿入します。
● 歯の側面をこすりながら2~3回上下します。

⑦老年期(66歳~80歳) 


1.喪失歯の増加

 
 この年齢になると、これまでのケア不足の結果として、歯を失うケースがふえています。歯が1本もない人も70歳以上では大変多くなっているのが現状です。こうなると、総入れ歯を使わねばなりません。
 最近の入れ歯はとても精巧につくられていますが、自分の歯のようにはいきません。食べ物も噛みにくくなります。1本でも多く自分の歯を残すよう努力することが肝心です。また、腎疾患、糖尿病、心疾患、高血圧などの病気のある人が歯科の治療を受ける場合、自分の病気で服用している薬のことを必ず歯科医師に申し出ること。
 

2.義歯と現存歯の手入れ

 
 部分入れ歯、総入れ歯ともに細菌が付着して不潔になりやすいものです。そのままにしておくと、歯ぐきに炎症を起こす原因にもなるので、手入れのポイントを参考に清掃を。一方、口の中の現存歯、特に入れ歯に接している歯は汚れがたまりやすく、むし歯になりやすいので、注意深くていねいに清掃する必要があります。また、入れ歯と接している歯ぐきのマッサージも忘れずに。
 

3.病気にかかった場合の歯の手入れ

 
 総入れ歯の人が入院した場合、すぐに入れ歯をはずされることがあるようです。使わない組織は機能が衰え、3日も使わない、噛まないでいると、入れ歯が合いにくくなります。その結果、食物が食べづらくなり、食欲も減って、全身の衰弱を助長し、さらに、噛まなくなり、食べなくなると、生きる意欲も減退し、痴呆症にもつながってきます。
 重篤な病気の場合は別ですが、症状がおさまれば早い段階で全身のリハビリをすることが大切といわれるように、口も同様で、自分で食べることが大切です。口腔の清掃をこまめにし、入れ歯を合うように直して噛めるようになった場合、食欲が戻り、元気が出て、起き上がれるようになり、痴呆症も治り、再び歩けるまでに回復した例もあるのです。
 また、点滴などで食事をしない場合でも、口の中は汚れています。これを放っておくと虫歯や歯周病が進み、口腔内枯膜にも各種の病変(白板症、口腔カンジタ症など)が起きることがあります。
 これらを防ぐには、顔や身体を清潔にするように、口の中の清掃をして、常に清潔に保つことが大切です0病人に対して口腔清掃をこまめに行ったところ、発熱頻度が下がった、肺炎の予防に繋がったという報告が頻繁に見受けられます。
 従来口の中の衛生は、身体の中でも最も軽視されてきた傾向があります。しかし、口も身体の一部です。とくに歯科疾患は、全身の健康と密接な関係があるのです。
 


部分入れ歯(局部義歯)


局部義歯は必ずはずしてから清掃します。ばね(クラスプ)の部分は小さな歯ブラシを用いてていねいに清掃します。また、ぱねをかける歯も注意して清掃します。
 

総入れ歯(総義歯)


●総義歯も必ずはずして、歯ブラシや義歯洗浄剤などで清掃します。
●義歯の材質は合成樹脂や金属など、ほんとうの歯よりもやわらかいので、強くみがきすぎると傷がつくので注意してください。
●タバコのヤニとか茶シブがついた場合は、義歯洗浄剤を使うと効果があります。また、義歯には細菌などがしみ込む場合があり、入れ歯特有のニオイの原因になります。義歯洗浄剤には、この菌を除菌するとともに、ニオイの発生を防ぐ効果もあります。
 

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