歯の歯科知識

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治療より予防が大切!

女性
 飽食の時代、ストレス社会と言われている現代において、むし歯や歯周病などの口腔内の疾患は増え続けています。これは、食べ過ぎや栄養のアンバランス、運動不足、ストレス、不摂生、過労などの様々な要因が考えられますが、これらは全て生活習慣に起因する、いわゆる生活習慣病の原因と一致しています。
 生活習慣病も口腔内の疾患も自分自身で予防できます。つまり、医師による治療以上に、自分でいかに予防するかが問われています。口腔内の疾患では、甘くやわらかい食物に偏った食生活を改善し、歯科専門家の指導のもと、適切な口腔清掃(歯みがき、プラークコントロール)をすることにより、歯科疾患はかなり予防できます。
 また、こうした歯の病気は全身の健康とも深くかかわっています。むし歯になると、発育を遅らせたり、顎や顔の発達に悪い影響を及ぼし、身体の他の部分がむしばまれる場合もあります。また逆に、「噛む」ということが全身の諸機能を活性化させ、子供では発育促進、大人では老化防止に役立つといわれています。
 全身の健康は、歯の健康管理からといっても決して過言ではありません。わが国の政策をみても、厚生労働省の成人歯科保健の推進目標「8020運動」をはじめ、地域保健、学校保健、老人保健等において、歯科保健の重要性が強調されています。
 歯の健康を守るには、歯科専門家によるプロフェッショナルケアと、各自の日常生活でのセルフケアで、「自分の歯は、自分で守る」という予防意識こそが大切です。そしてそれを生活のなかで実践してしいくことが健康長寿社会におけるトータルヘルス(全身の健康)を約束してくれるものといえるでしよう。

1.虫歯と身体の関係

イラスト

虫歯や歯周病など、歯や歯ぐきに病気があると、身体の他の部分がむしばまれることがあります。虫歯を放っておくと、下記のような身体や精神に悪影響を及ぼします。
 

●発育が遅れる

 虫歯があると食物を十分に噛み砕くことができません。その結果、不満足な食事がもとで栄養が充分にとれず、発育・発達が遅れたりします。また、虫歯が気になって、たえずその部分を舌でさわったり、集中カを失い、精神的に不安定になることがあります。
 

●顎や顔の発育に悪影響

 虫歯のために充分な咀しゃくができないと、片側だけで噛み続けることになりかねません。その結果、顎の発達がいびつになったり、ゆがんだ顔になる場合があります。
 

●歯ならびがわるくなる

 乳歯が虫歯になると、永久歯との交替がうまくいきません。その結果、永久歯の歯ならぴを悪くしたり(歯列不正)、不正咬合(上下の噛み合せが整わない)の原因になります。歯ならびが悪いと、顔の表情や発音にも影響し、人前で話すことをきらうようになったり、劣等感をいだくようになります。
 

●他の病気を併発する

 虫歯が歯髄(神経)まで進行すると、細菌や細菌の毒素が血管に侵入し体内の別な箇所で病気を引き起こすこと(病巣感染)があります。また歯周病の場合も同様です。歯や歯ぐきの病気は、病巣感染を起こしやすし、病気の一つです。
 

2.歯周病と身体の関係

歯磨き
 歯周病はプラークを原因とした病気ですが、生活習慣病やホルモンバランスなどの体の状態、喫煙やストレスなどの生活習慣・環境により、その発症・進行に大きな影響を受けることがわかってきています。また一方で歯周病の原因になる細菌やそれが原因で生体から作られた物質が、全身の病気に大きく影響することも報告されています。

 全身の病気が歯周病を悪化させるものとして、糖尿病があります。一方で歯周病は、糖尿病や心臓・血管系の病気を悪化させます。特に歯周病と糖尿病は、双方向の影響が指摘されています。歯周病にかかった妊婦は、低体重児早産のリスクが高くなる事実も明らかになってきています。
 生活習慣や環境からの影響としては、喫煙習慣、ストレスや過労が歯ぐきの炎症を悪化させることが知られています。女性ホルモンと関係の深い骨粗鬆症は、歯周病と関連があると言われています。
 また年齢とともに嚥下機能と抵抗力が低下するために、□からものを飲み込むときに、お□の中の菌がしらないうちに気管から肺に流れ込み、肺炎にかかる危険性が高まることがわかっています。
 歯周病の予防には、食生活を含めた生活の見直しと日常のお口のケア、特に歯間部の清掃が大切です。
 厚生労働省により策定された、健康寿命の延伸を図っていくことを趣旨とした「健康日本21」でも、歯周病リスク低減のためのエビデンスのある手段として、歯問清掃具の重要性が取り上げられています。

3.噛むことと唾液の効用

①消化を助け肥満の防止にも

 食物をこまかく噛み砕くことにより唾液の分泌がよくなり、消化・吸収が向上し、血糖値を高め満腹感を感じさせるので、食事の量が少なくなります。また、胃への負担を減らします。
 

②顎の組織を強くし、顔・形の正しい発育を促進

 噛むことで、顎や頭部の骨・筋肉などの組織が強くなり、顎・顔形の正しい発育を促進します。
 

③老化防止

 噛むことで血液循環がよくなり、脳神経が刺激され脳の働きが活発になるなど、老化防止に効果があるといわれています。
 

④味覚の発達

 よく噛むことで、舌の味細胞を刺激、発達させ、脳の味覚中枢を刺激して食べ物をおいしく味わえます。
 

⑤口中の自浄作用

 よく噛むことにより唾液の分泌量が増え、自浄作用で歯は汚れにくくなり、歯面の清掃が行われるので、むし歯や歯周病の予防につながります。
 

⑤ガンの予防にも

 唾液に含まれるペルオキシダーゼやカタラーゼなどの酵素が、発ガン物質の働きを抑制するといわれています。

4.平均寿命と歯の寿命

 厚生労働省の平成14年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性で約78歳、女性で約85歳。一方、歯の平均寿命(萌出後の年数)は図のように、歯種によって違いますが50~70歳ぐらいです。人によっては何十年も「歯なし」で暮らさなければなりません。
 しかし、本来歯には寿命はなく、私たちの日頃のケア不足から、歯の寿命をつくっているといえます。ある調査では、たった1本の歯を入れ歯にしただけで噛む力は約10%落ち、総入れ歯だと約70%以上落ちるといわれます。目分の歯があってこそ何でもおいしく食べられ、それが生きる意欲にもつながってくるのです。そのためにも、日頃から歯のケアを充分に行い、健康な歯を1本でも多く保つことが大切です。

 

 
歯

5.8020運動

 人生80年といわれる高齢社会にあって、健康で快適な生活を送るためには、まず生命を維持していくための食べ物が、何でもおいしく食べられることです。そのためにも、健康な歯はかかせません。

 
 厚生労働省と日本歯科医師会がすすめている成人歯科保健の推進目標として「8020運動」があります。これは、80歳になっても20本以上は自分の歯を保とうという運動です。目分の歯が20本以上あれば、たいていの食べ物を噛むことができ、それほど不自由しないで、食事が楽しめるのです。
 

 
歯の数による噛み具合

6.歯と生活自立

 目分の歯があると無し、とでは、生活自立度も違ってきます。右図は80歳の人を対象に行なった歯科保健調査で、歯の数と生活自立度の関係をあらわしたものです。

 歯の数が0~9本で入れ歯をしていない人は、自立度の低い人が大半で、ほぼ自立している人は20%弱です。反対に、自分の歯が20本以上ある人は、ほとんどの人が自立しています。しかし、歯の数が少なくても、入れ歯がよく機能していれば、かなり自立度が高いことがわかります。

 目立度の高い人と低い人では、とくに食生活と社会性できわだった差があるようです。目立度の高し、人は栄養のバランスがよく、噛みごたえのある食物もよく食べ、仕事・役割を持ち、家族以外の人とも話をし、新聞やテレビなどでニュースをよく見るなど、社会とのかかわりのある生活をしているようです。

 

 
歯の数と生活自立度

7.歯の構造

歯の構造

8.永久歯の名称と位置

歯の名称と位置

9.歯を失う2大要素

 虫歯や歯周病といった歯と歯ぐきの病気(=歯科疾患)は、突然できるわけではありません。間食が多い、寝る前に飲食をする、歯みがきをしないなど、不適切な生活習慣が長い間つみかさなった結果つくられるのです。つまり歯科疾患には生活習慣が大きくかかわっているといえます。

 
 たとえば、昭和20年ころの日本では、子供の虫歯が少なくなりました。これは、戦争の影響で糖分の摂取が制限された結果です。ところがその後の経済成長に伴って、食生活をはじめとする生活習慣が大きく変化した結果、虫歯や歯周病が増加を続けてきました。
 そして現在では、多くの人にむし歯をはじめとする歯科疾患がみられます。ところが、歯科疾患では高熱が出て寝込んだり入院したりといった重い症状が引き起こされることがほとんどありません。そのためか、悪くなれば歯科医院へ行けばいいなどと安易に考えている人が多いようです。
 
 しかし、虫歯も歯周病も病気です。治療よりも、まず予防が肝心です。さいわい、こうした歯科疾患は他の病気とくらべて原因がはっきりしています。毎日の手入れしだいでかなり予防することができるのです。
 
 厚生労働省の平成11年歯科疾患実態調査報告によると、日本人の約60%が、なんらかの理由で歯(永久歯)を失っています。一方、神奈川県歯科医師会の調査によると、歯を失う原因として虫歯と歯周病でしめる割合は86%、事故・矯正など、その他の要因は14%でした。見方をかえれば、歯科疾患の罷患のメカニズムを理解して対応することで、大切な歯をかなり守ることができる、ともいえます。
 

 
歯を失う原因

10.虫歯と歯周病の進行過程

虫歯と歯周病の進行過程

11.歯科疾患の原因

 虫歯も歯周病も、プラーク(歯垢)によって引き起こされます。プラークとは歯の表面につくネバネバとした物質で、細菌のかたまりです01ミリグラム中に1億もの細菌がすんでいるといわれています。この中にいる細菌がつくる酸や毒素によって虫歯や歯周病がつくられるのです。
 

 
プラークメカニズム
プラークメカニズム

12.虫歯予防

 虫歯を引き起こす直接の原因は、プラーク(歯垢)です。しかし、その背景には食生活をはじめ、生活習慣や家庭・地域社会のありかたなどが深くかかわっています。ですから、予防についても多面的に考え、対処する必要があります。
 

①おやつ(甘い飲食物)に注意

 虫歯の発生は、砂糖のとりかたと密接にかかわっています。最近の加工食品には砂糖が多用されているので、注意が必要です。さらに、どう食べるかも問題です。特に「だらだら食い」はむし歯の危険性を増大させます。汚れた口の中は常に酸性に傾いているために、とても虫歯になりやすいのです。赤ちゃんが寝るときに甘い飲物が入つたほ乳びんをくわえているためにできる「ほ乳びん虫歯」はその一例です。なにを食べるか、どう食べるかから、歯みがきまでを含めた、基本的な生活習慣を形成することが、虫歯の予防には大切です。
 小さい子は、胃が小さいので間食は必要ですが、間食は甘いおやつとは限らず、一日の全体の食事のバランスを考えて与えましよう。時間をきめて、食べたあとはお口の清掃を忘れずに。
 

②食べ物の好き嫌いをなくす

 繊維質の食品や歯ごたえのあるものは顎を鍛え、口腔内を清掃する働きをします。現代の食生活はこうした食品を避ける傾向にあり、偏食はこれを助長します。
 
③いつも歯はきれいな状態に
 虫歯は、常にプラークが付着している部分から起こります。ですから、虫歯菌の活動を断ち切る意味で、プラークを落とし口の中を清潔にしておくことが肝要です。
 

13.歯周病予防

 歯周病の予防も、考え方は基本的には虫歯の予防と同じです。口の中を清潔に保つこと、食生活をはじめとした正しい生活習慣を維持することが大切です。また、歯周病は全身的影響を受けやすいので、健康を自己管理していくことが肝要です。
 

①歯を常に清潔にたもつ

 歯周病の場合、歯と歯ぐきの境目についたプラーク(歯垢)が問題となります。歯磨剤や歯ブラシ、歯間清掃用具等を用い、プラークをきれいに取り除く方法を身につけることが大切です。
 

②食事のとり方と内容に注意

 不規則な食事や間食は、口の中の清潔を保つうえでマイナス。また、歯にくっつきやすい軟らかいもの、甘いものにかたよらず、繊維質のもの、噛みごたえあるものをとり入れて、しっかり噛んで食べるようにしましよう。
 

③歯ぐきの状態は自分でチェック

 歯ぐきの炎症は、軽症なら適切な歯みがきによってもとの健康な歯ぐきにもどすことも可能です。歯ぐきの健康状態を見極め、異常があれば歯科医に診てもらうとともに、口中の清潔にカロえて、歯ぐきを歯ブラシや指でマッサージすると効果的です。
 

④規則正しい生活習慣を

 疲れや病気などで生活リズムが乱れると歯ぐきにトラブルがあらわれることがあります。全身的な健康管理を心がけましよう。
 

14.セルフケアの基礎知識

①歯みがき(口腔清掃)の目的

 歯みがきの最大の目的は、歯の表面からプラーク(歯垢)を取り除くこと。プラークさえなければ、そのために引き起こされる虫歯も歯周病も防ぐことができるというわけです。いいかえれば、どんなに歯を「みがいて」も、プラークが落ちていなければ「みがけた」ことにはなりません。日常の自分で行なう適切な清掃が歯を健康に保つ基本です。
 

②プラークのたまりやすい場所

 プラークは、歯と歯ぐきの境目、歯の小さな溝やすきま、凹部にたまります。特に下のイラストの部分lまみがいているつもりでも、歯ブラシが届いていない場合が多いので、注意が必要です。
 歯垢染め出し剤で、みがき残しやすい部分をチェックし、歯ブラシの当てかたを工夫するとよいでしょう。
 

プラークのたまりやすい場所

 

③早期発見のためのチェックポイント

 

■ 虫歯のチェックポイント

 虫歯を早期発見するには、毎日鏡の前で口の中の状態をチェックすることが有効です。
 

● 虫歯のチェックリスト

 
□ 歯と歯ぐきの境目などが白っぽく濁っている
□ 奥歯の噛み合わせが茶~黒っぼくなっている
□ 水、お湯、甘いものなどでしみる歯がある
□ 時々痛む歯がある
 

■歯ぐきのチェックポイント

 歯周病はあまり痛みも感じないまま、症状が進行し、やがては歯が抜けてしまう病気。予防を心がけることが何よりですが、万一なってしまった場合でも、早期に発見して処置することで歯は守れます。
 

● 歯周病のチェックリスト

(歯周病は、下記のような症状が複合してあらわれるので、日常生活の中でチェックできます)
 
□ 歯ぐきからの出血がある
□ 歯ぐきが赤く腫れたりしている
□ 歯ぐきがむずがゆい感じがする
□ 口臭がある
□ 起床時、口の中がねばっこい感じがする
□ 物が噛み切れない
□ 歯と歯の間に食片がはさまる
□ 歯がしみる
□ 歯ぐきから膿が出る
□ 歯が伸びた感じがする
□ 歯の表面がザラザラした感じがする(歯石沈着)

15.セルフケアの方法

①歯みがきの基本

 
歯ブラシの当て方
く歯ブラシの当て方〉
 歯は1枚の板ではありません。歯は立体的で1本ずつ形がちがい、歯のならびかたも人によりちがいます。歯の表面だけでなく、谷間(溝)までていねいにみがく(清掃する)ようにしましょう。鏡を見ながら、自分で歯ブラシの当て方を工夫してみることも大切です。
●歯ブラシの毛先を歯面に直角に当て●軽い力(ブラッシング圧/約200g)で●小きざみにこすったとき、ブラッシングの効果は最も大きくなり、プラークを確実にしかも簡単に落とすことができます。●歯磨剤の適量は、歯ブラシに1g(練り歯磨なら1cm程度)を使用します。
 

く毛先を上手に使う〉

 みがく場所に合わせて、歯ブラシの「つま先」、「わき」、「かかと」の3つの部分をイラストのように使い分けると効果的に清掃できます。
 

毛先を上手に使う
 

②歯をみがくタイミング

歯をみがくタイミング
 口の中に糖分が入るとプラーク(歯垢)の活動は活発になり、酸をつくりだします。この状態は食後すぐに始まり、約40分程度続きます。この時間を少しでも短くすることが、歯と歯ぐきの健康を守るうえで重要です。
 歯みがきは食後3分以内にといわれるのはそのため。「食べたら、みがく(清掃する)」が効果的なのです。
 

③歯ブラシの選び方

 毛先を上手に使って歯のすみずみまでしっかりとみがくためには、使う人の口のサイズや状態に合わせた歯ブラシを選ぶことが大切。
 歯の並びかたや、歯ぐきの状態に合せて、毛のかたさ、植毛の具合など、2~3種類の歯ブラシを使い分けるのもよいでしよう。
 

④定期健診を受ける(プロフエツショナルケア)

 日常の口腔衛生管理は、自分で行なうのが基本ですが、セルフケアでは、どうしても行き届かない部分があります。むし歯のできやすい子ども(幼児期~学童期)では3~4ヶ月に1度、大人では半年に1度は、歯科医による健康診断を受け、歯石除去などのケアをしてもらうことが必要です。その折りに、口腔清掃の不備な点が指摘され、もし歯科疾患になっていても早い段階で処置できます。
 セルフケアとプロフェッショナルケアの両方によつて、お口の健康が適切に維持されるのです。

16.歯磨剤について

1.歯磨剤の働き

 
 歯につく汚れは、大きくわけて2種類あります。ひとつが歯科疾患の原因となるプラーク(歯垢)。もうひとつが食べかすや茶しぶなど食べ物に由来する着色汚れ(カラーステイン)です。特にプラークはネバネバと歯の表面にこびりつき、うがいくらいでは落とすことができません。しかし歯磨剤を使ってブラツシンク(清掃)することで、プラークの除去効果を高めることができます。また、歯ブラシだけでは落とせない茶しぶなどの着色汚れも、歯磨剤を使うことで落とすことができます。歯磨剤にはさまざまな成分が含まれており、歯の表面を傷つけることなく汚れを落とすと同時に、細菌の除去や繁殖抑制の効果もあります。このほか歯磨剤には口臭予防、口中を爽快にする、歯を白くするなどの働きがあります。さらに薬効成分を配合し、虫歯や歯周病の予防効果などを高めています。
 

2.歯磨剤の効能効果

 
●プラーク(歯垢)を除去する
 プラークとは歯の表面につくネバネバした汚れで、その正体は細菌のかたまりです。プラークは虫歯や歯周病の原因となるばかりでなく、口臭や歯石の沈着にもつながります。歯と歯ぐきのトラブルを防ぐには、プラークの除去が第一。歯磨剤を使ってブラツシンク(清掃)することでプラークが効果的に除去でき、再付着しにくくなります。また、液体歯磨や洗口液も、プラークの抑制、除去効果を高めるのに役立ちます。
 

● 虫歯を防ぐ

 虫歯とは、プラークの中の細菌がつくる酸により歯が溶かされる病気です。虫歯を防ぐには、プラークを取り除くことがなにより大切です。歯磨剤を使えば、プラークの除去や付着防止などに効果があります。また、細菌の繁殖を抑制する薬効成分配合の歯磨剤や、歯の再石灰化の促進、耐酸性の向上といった働きのあるフツ化物配合の歯磨剤もあります。
 

● 歯石の沈着を防ぐ

 歯石とは、プラークが唾液中のカルシウムやリンによって石灰化してできるかたい物質。歯ぐきを刺激して、腫れや出血を引き起こす原因になります。歯石を防ぐには、歯石の原因となるプラークをまず取り除くこと。歯磨剤を使ってブラツシンクすることで、このプラークを効果的に除去できます。また、石灰化をおさえる成分によって歯石の沈着を防ぐ歯磨剤もあります。すでにできてしまった歯石は、歯科医院で除去してもらいましょう。
 

● 病(歯肉炎・歯周炎)を防ぐ

 歯ぐきが炎症を起こし、最後に歯が抜けてしまうという歯周病も、プラークや歯石の沈着が原因です。ですから、プラーク除去効果がある一般の歯磨剤を使ってブラッシンクすることは、歯周病予防のうえでも効果があります。さらに、歯周病の原因となる細菌の増殖抑制、炎症の抑制、収れん、止血、血行促進などの働きを持つ各種薬効成分(抗菌剤、消炎剤、収れん剤、止血剤、血行促進剤など)を配合し、歯周病を予防する歯磨剤もあります。
 

● 口臭を防ぐ

 口臭の90%以上は、口の中の汚れ(プラークなど)や虫歯、歯周病などが原因です。ですからプラークや食べかすを取り除き、口中を清潔にすることで、口臭はある程度予防できます。歯磨剤顆lこはハッカ(ペパーミントやスペアミントなど)をベースにした香料が配合されているので、独特の爽快感があり、口臭を防ぐと同時に口中を爽快にします。
 

● 歯を白くする

 歯磨剤を使わず歯の清掃を続けていると、歯が黄色ないし褐色に着色してくることがあります。この汚れはカラーステインと呼ばれ、飲食物中の色素やタバコのヤニなどによってつくられます。歯磨剤を使ってブラッシンクすることで、カラーステインを取り除き、歯本来の色を取り戻すことができます。もちろん「歯を白くする」といっても漂白や歯を削ることではありません。
 

■ 歯磨剤の歴史

 人が歯をみがくようになったのは、1万年くらい前からであろうといわれています。世界で最も古い歯磨剤は、紀元前1500年以上前の古代エジプトの記録にその処方がみられます。古代インドでは、伝承医学書アーユルヴェーダに、歯磨剤や歯ブラシに用いる木の種類などが、詳しく書かれており、紀元前6世紀頃、お釈迦さまが歯をみがくことを奨励したといわれます。歯をみがく木「歯木」が、中国を経て、仏教とともに日本に伝わり、後に房楊枝(木の先端をくだいてブラシ状にしたもの)や爪楊枝になりました。
 日本での昔の歯磨剤は塩だったようですが、商品化されたのは、江戸時代初期(1643年)に「丁字屋歯磨」が最初で、龍脳、丁字、塩、房州砂、貝殻粉末などを混ぜた粉歯磨でした。水歯磨剤は明治11年に、練り歯磨剤は明治21年に発売されたのが最初です。
 以来、歯磨剤は、剤形、機能、効能・効果、品質等の改良が重ねられてきました。ことに昭和時代になってからの歯磨剤の多くは、科学的な有効性の評価データを基に、口腔保健剤としての役割を果たしています。

17.乳児期から老年期まで

乳児から老人までの口腔清掃


 虫歯や歯周病のない健康な口腔機能を維持することは、何よりも食生活を豊かにし、快適な人生を送るうえで大切なことです。そのためにも正しい歯みがきは欠かせません。ここでは胎児・乳幼児期から老人期までの各ライフステージにおける効果的な歯のみがきかた(口腔清掃)を紹介します。
 
①胎児期(誕生前)  ②乳幼児期(0歳~6歳)  ③学童期(7歳~12歳)  ④思春期(13歳~20歳)

⑤成人期(21歳~40歳)  ⑥壮年期(41歳~65歳)  ⑦老年期(66歳~80歳) 
  

①胎児期(誕生前)

 

1.歯の形成期

 生後6カ月頃から生え始める乳歯も、また、6歳頃から生え始める永久歯も、すでにこの胎児期から形成が始まっています。乳歯のもとになる芽(歯胚)は胎生7週目頃からつくられ、お母さんのお腹の中でほぼ完成します。また、永久歯の歯胚も胎生14週目頃からつくられます。
 

2.歯と食物(栄養)

 母体の健康を保つことはもちろん、胎児への栄養補給としてバランスのとれた食生活が大切です。特に強い歯をつくるために、タンパク質、カルシウムとリンは十分に。
  

歯と食物(栄養)

②乳幼児期(0歳~6歳)

 

1.乳歯のむし歯

 
 乳歯は生後6ヶ月頃から生え始め2歳半頃に生えそろいます。厚生労働省の平成11年歯科疾患実態調査報告によると、2歳で22%の子供がむし歯になり、5歳で64%と約3倍に増えています。その後生えかわる永久歯がむし歯にならないようにするためにも、乳幼児期に十分に注意することが大切です。3力月に1回、少なくとも半年に1回は定期健診を受けたほうがよいでしょう。また予防処置としてフツ化物の歯面塗布や予防填塞(奥歯の溝を埋める)をしてもらうと効果的です。
 また、おやつは時間と量を決め、食べ物を選んで与えること。そして歯がきちんとみがけるようになるまでは、甘いお菓子などを制限し、虫歯予防に心がけることです。
 

2.歯みがきの習慣づけ

 
 歯が生え始めた時から虫歯予防は始まります。はじめは清潔なガーゼで歯の周りを拭き取るように。そして、歯ブラシに慣れさせ、歯みがきをいやがらないようにするためにも、早いうちから歯ブラシを使って歯をみがく習慣をつけるようにすることが肝心です。
 
3.お母さんの仕上げみがき
 歯ブラシに慣れてくると子供は自分でみがきたがりますが、まだひとりで上手にみがくことはできません。むし歯を防ぐうえで、お母さんの仕上げみがき(清掃)が大切です。
 
 
手入れのポイント

 
1歳
 “保護者みがき(全体的にみがいてあげる)”
☆歯みがきの習慣づけ
 
 
2歳
 奥歯の噛み合わせ部分には溝があり、むし歯になりやすいので、一番奥の歯までしっかり清掃することが大切です。
☆歯みがき練習開始
 

3~5歳
 “仕上げみがき(保護者みがきに加えて子供への歯みがき指導)”
子供は練習することにより、歯みがきができるようになります。しかし、上手にできるまでは“仕上げみがぎをしてあげましょう。

③学童期(7歳~12歳)

 

①生えかわりの時期

 
 5歳から6歳にかけて最初の永久歯(第一大臼歯)が乳歯列の一番奥に生えてきます。そして12歳頃までに、乳歯は永久歯へと生えかわります。
 

②生え始めに多い永久歯のむし歯

 
 生えて間もない永久歯は、虫歯になることが多いようです。永久歯とはいえ、生えたばかりで歯質そのものがまだ未熟で、虫歯菌に対する抵抗力も弱いのです。とくに第一大臼歯などは生えきるまでに1年~1年半ほどもかかるため、歯ブラシが届きにくい状態が続きます。その間に虫歯になる率が高いのです。この第一大臼歯は生涯の阻しゃくの中心になる歯です。この時期の虫歯を防ぐことがその後の歯の運命を決めるといっても過言ではありません。
 また、初期の歯肉炎は、学童期から始まり年齢とともに増加しています。歯ぐきにも注意が必要です。
 

③歯みがき方法は歯並びにあわせて

 
 
手入れのポイント

 
第一大日歯 噛み合わせの溝の汚れをかき出すように清掃しましよう。
 
  
歯磨き

● 前後に動かすだけではよく清掃できません。
● 歯列に対し45度ななめから歯ブラシを入れて清掃します。
 

④思春期(13歳~20歳)

 

1.歯肉炎の発症期

 この時期、歯ぐきの腫れや出血が多くみられることがあります。歯ぐきのトラブルの初期段階である歯肉炎の始まりです。歯肉炎初期は痛みもなく、症状も小さいために見逃しやすいもの。放っておくと、さらに進んで歯周炎になることもあります。
 歯みがきの時に歯ぐきをチェックし、異常を早期に発見することが大切です。
 

2.プラーク(歯垢)のたまりやすい場所に注意したブラッシングを

 歯ぐきのトラブルと並び、奥歯のむし歯もこの時期は依然多くみられます。どちらもその原因はプラ-ク(歯垢)です。特にたまりやすいポイントに注意してていねいに清掃することが大切です。


■健康な歯ぐき

健康な歯ぐき
 ● 歯ぐきの色:薄いピンク
 ● 歯ぐきの形・感触:歯間部にしっかりと入り込んで弾力性に富み、引き締まっている。
 
 
 
 

■ 歯肉炎(歯ぐきのみに炎症が起きた場合)

歯肉炎
 歯と歯ぐきの境目に付着・停滞しているプラーク中の細菌の出す毒素により歯ぐきに炎症が起き、歯ぐきが赤く腫れてきます。そのため歯の周りに歯肉ポケット(仮性ポケット)と呼ばれる溝ができ、プラークがますますたまりやすくなります。
● 歯ぐきの色:赤みを帯びる。
● 歯ぐきの形・感触:歯間部の歯ぐきは、先端部(歯間乳頭)が丸みをもってふくらんでくる。
● その他:歯みがき程度の軽い刺激でも出血しやすい。
 
手入れのポイント


この時期からデンタルフロスを併用することが大切です
 

● 歯と歯ぐきの境目

歯と歯ぐきの境目
歯ブラシの毛先(わき)を歯と歯ぐきの境目に当て、細かく振動させて清掃します。
 
 
 
 

● 奥歯の噛み合わせ

奥歯の噛み合わせ
噛み合わせ面に直角に歯ブラシをあて、細かく前後に動かして清掃する。
 
 
 
 
 

●奥歯の後ろ側

奥歯の後ろ側
歯ブラシの毛先を奥歯の後ろ側にあて、細かく前後・左石に動かして清掃する。

⑤成人期(21歳~40歳)

 

1.歯周炎の発症期

 これまでの生活習慣や歯のケア不足が原因で、歯肉炎はさらに増力ロし、処置せずに放っておくと、歯槽骨や歯根膜にまで炎症が進行した歯周炎もみられるようになります。歯周炎は、成人期以降に歯を失う主因。また、特にこの時期から注意したいのは高脂血症、糖尿病などの生活習慣病です。薬によっては唾液分泌を抑制するものがあります。唾液が少なくなると歯の周りが汚れやすくなり、歯周病の原因にもなります。日頃の歯の清掃が欠かせません。
 

2.歯ぐきを守るブラッシング

 歯ぐきのトラブルはブラツシンクを上手にすることで改善することが可能です。そのためには、歯と歯ぐきの境目のプラーク(歯垢)除去が肝心です。歯の根や歯ぐきをていねいに清掃することがポイントです。
 同時に、歯ぐきのマッサージをして、歯ぐきの血行をよくすることも忘れずに。
 
手入れのポイント

 

<歯石のたまりやすい場所〉

 歯石は歯ぐきを刺激して、炎症を引き起こす原因となります。また表面がざらざらしているためにプラークがさらにたまりやすくなります。ブラツシンクでプラークをしっかり除去しておけば歯石はできません。
 

● 前歯の裏側

前歯の裏側
下顎の前歯の裏側はプラークや歯石がたまりやすい部分。毛先をしっかり届かせて清掃すること。
 
 
 
 

● 奥歯の表(ほお)側

奥歯の表(ほお)側
とくに上ブラシが動かしにくいところです。口を指1本分くらい開ける程度にするとみがきやすくなります。
 
 
 
 

● 利き腕側の上あごの奥歯

利き腕側の上あごの奥歯
とくに裏(舌)側は力が入りにくいので、ゆつくりていねに。首を利きき腕側に軽く傾けるとみがきやすくなります。

⑥壮年期(41歳~65歳)

 

1.歯の喪失が始まる

 40歳代以降、歯周病などによって歯を失う人が増えてきます。働き盛りで、歯科医院へ通う時間がつくりにくいなどの理由が考えられますが、歯は失ったら二度と元には戻らないのです。年2回の定期健診を受け、予防と早期発見を心がけたいものです。
 

2.歯根のむし歯に注意

 この世代になると歯周炎や不適切なブラツシンク(力の入れすぎ)などで歯ぐきが次第に退縮し、人によっては歯の根が出てくることがあります。歯の根(象牙質)は歯の表面のエナメル質と違って軟らかい組織で、むし歯にかかりやすいので注意が必要です。
 
手入れのポイント

 

○ さし歯や詰め物のある歯

さし歯や詰め物のある歯
さし歯=つぎ足したところ、とくに歯ぐきとの境目に気をつけて清掃します。
詰め物のある歯=詰め物の周りがむし歯になりやすいので毛先を到達させて小刻みに動かして清掃します。
 
 
 
 

○ 歯の根がでているところ

歯の根がでているところ
歯の楓まプラークがつきやすく、エナメル質より軟らかいのでむし歯になりやすい部分です。
歯と歯の間も広くなるので、先をきちんと当て、小刻みに動かし、1本ずつ清掃します。また、歯間ブラシを使うと清掃しやすいでしょう。
 
 
 

○ 歯間ブラシ

歯間ブラシ
● 歯間部が広い場合の清掃に。
● 歯ぐきを傷つけないよう、ゆっくりゆすりながら挿入します。
● ブラシを水平にし、ゆっくりと前後に2~3固動かし清掃します。
 
 
 

○ デンタルフロス

デンタルフロス
● 歯ブラシが届かない歯間部の清掃に使います。
● 両端を指に巻きつけ、歯と歯の間に歯面に沿ってゆっくり挿入します。
● 歯の側面をこすりながら2~3回上下します。

⑦老年期(66歳~80歳) 

 

1.喪失歯の増加

 
 この年齢になると、これまでのケア不足の結果として、歯を失うケースがふえています。歯が1本もない人も70歳以上では大変多くなっているのが現状です。こうなると、総入れ歯を使わねばなりません。
 最近の入れ歯はとても精巧につくられていますが、自分の歯のようにはいきません。食べ物も噛みにくくなります。1本でも多く自分の歯を残すよう努力することが肝心です。また、腎疾患、糖尿病、心疾患、高血圧などの病気のある人が歯科の治療を受ける場合、自分の病気で服用している薬のことを必ず歯科医師に申し出ること。
 

2.義歯と現存歯の手入れ

 
 部分入れ歯、総入れ歯ともに細菌が付着して不潔になりやすいものです。そのままにしておくと、歯ぐきに炎症を起こす原因にもなるので、手入れのポイントを参考に清掃を。一方、口の中の現存歯、特に入れ歯に接している歯は汚れがたまりやすく、むし歯になりやすいので、注意深くていねいに清掃する必要があります。また、入れ歯と接している歯ぐきのマッサージも忘れずに。
 

3.病気にかかった場合の歯の手入れ

 
 総入れ歯の人が入院した場合、すぐに入れ歯をはずされることがあるようです。使わない組織は機能が衰え、3日も使わない、噛まないでいると、入れ歯が合いにくくなります。その結果、食物が食べづらくなり、食欲も減って、全身の衰弱を助長し、さらに、噛まなくなり、食べなくなると、生きる意欲も減退し、痴呆症にもつながってきます。
 重篤な病気の場合は別ですが、症状がおさまれば早い段階で全身のリハビリをすることが大切といわれるように、口も同様で、自分で食べることが大切です。口腔の清掃をこまめにし、入れ歯を合うように直して噛めるようになった場合、食欲が戻り、元気が出て、起き上がれるようになり、痴呆症も治り、再び歩けるまでに回復した例もあるのです。
 また、点滴などで食事をしない場合でも、口の中は汚れています。これを放っておくと虫歯や歯周病が進み、口腔内枯膜にも各種の病変(白板症、口腔カンジタ症など)が起きることがあります。
 これらを防ぐには、顔や身体を清潔にするように、口の中の清掃をして、常に清潔に保つことが大切です0病人に対して口腔清掃をこまめに行ったところ、発熱頻度が下がった、肺炎の予防に繋がったという報告が頻繁に見受けられます。
 従来口の中の衛生は、身体の中でも最も軽視されてきた傾向があります。しかし、口も身体の一部です。とくに歯科疾患は、全身の健康と密接な関係があるのです。
 
手入れのポイント

 

部分入れ歯(局部義歯)

部分入れ歯(局部義歯)


局部義歯は必ずはずしてから清掃します。ばね(クラスプ)の部分は小さな歯ブラシを用いてていねいに清掃します。また、ぱねをかける歯も注意して清掃します。
 

総入れ歯(総義歯)


●総義歯も必ずはずして、歯ブラシや義歯洗浄剤などで清掃します。
●義歯の材質は合成樹脂や金属など、ほんとうの歯よりもやわらかいので、強くみがきすぎると傷がつくので注意してください。
●タバコのヤニとか茶シブがついた場合は、義歯洗浄剤を使うと効果があります。また、義歯には細菌などがしみ込む場合があり、入れ歯特有のニオイの原因になります。義歯洗浄剤には、この菌を除菌するとともに、ニオイの発生を防ぐ効果もあります。